不動産・土地の相続をするとき、事前の準備が必須です。特に相続人に知的障害者や精神障害者がいる場合、たとえ親族間の仲が良かったとしても、事前の対策がないと結果的に不動産が無意味なものとなる可能性が高いです。

例えば、建物・土地などの不動産は共有名義を必ず避けるべきであり、遺言がなければ共有名義化を防ぐのが難しいです。また不動産を相続させるにしても、家族信託を利用したり、事前の処分を考えたりしなければいけません。

軽度の障害で判断能力がある場合、大きな問題は起こりません。ただ判断能力が乏しい場合、不動産の相続では不都合な事態に陥りやすいです。

それでは、障害者が相続人として存在するとき、建物・土地などの不動産をどのように相続させればいいのでしょうか。事前に考えるべき内容を解説していきます。

共有名義を防ぐため、事前の遺言は必須

不動産は単独名義でなければいけません。ほかの人との共有名義だと、自由に不動産を売ることができないからです。不動産を売却するためには、名義人全員の承諾が必要になります。そのため共有名義にメリットはほぼ存在せず、デメリットばかりなのです。

ただ相続では、共有名義になってしまう事態がひんぱんに発生します。お金とは異なり、建物や土地を自由に分割することはできません。そこで、持分として相続割合に応じて共有名義にするのです。

親族間の仲が悪い場合、これによって不動産の売却が困難になり、さらに他の相続が重なることで共有名義人が増え、不動産が負の財産となります。

一方で親族間の仲が良い場合、話し合いにより、単独名義になるように登記しなおすことが可能です。ただ相続人に判断能力の乏しい障害者がいる場合、こうした話し合い自体が不可能です。こうした知的障害者や精神障害者は判断能力に劣るため、契約ができないのです。

たとえ兄弟姉妹の仲が良かったとしても、障害のある相続人がいると不動産が使い物にならなくなるリスクが高くなるのです。これが、遺言が必須となる理由です。

まず、遺産分割協議(財産をどのように分けるのかの協議)は「相続人全員が参加している」「相続人全員に判断能力がある」ことが前提となります。

そのため、判断能力のない障害者が相続人の中にいる場合、そもそも遺産分割協議が進行しません。このように考えると、遺言を含めた事前対策が必須になる理由がわかります。

成年後見は意味がなく、不動産が無価値になる

なお相続人の判断能力がない場合、成年後見人を選定することができます。裁判所が成年後見人を選び、判断能力のない知的障害者や精神障害者の代わりに財産管理や契約書へのサインを行うことができます。

ただ残念ながら、親族が成年後見人に選ばれることはほとんどありません。多くは司法書士などの専門家が選ばれます。また費用は高額であり、月2~5万円を専門家に支払わなければいけません。さらに、障害者本人が死ぬまで成年後見の解除はできません。

最悪なのは、本人の利益に反することを成年後見人が認めることはありません。つまり成年後見制度は親族のための制度ではなく、障害者本人の利益を守るための制度なのです。

例えば不動産を売却したいと考えても、それは親族の都合であり、障害者本人にとっては好ましくないかもしれません。たとえ「不動産を売ったお金で施設入所に必要な資金をねん出したい」と懇願しても受け入れてもらえません。成年後見というのは、非常に使い勝手が悪い制度なのです。

当然、遺産分割協議で成年後見人を選定すると、障害者本人にとって少しでも不利な内容には賛同してもらえません。こうして不動産が共有名義となった場合、障害者が相続した資産は自由に使えず、さらには不動産の売却もできず、不動産が実質的に無価値となります。

このように考えると、建物・土地の相続では、特に事前の対策が必要になる理由を理解できると思います。

なお良いのは、「健常者の親族(例えば健常者の長男など)へ不動産を渡す」と遺言に明確に記す方法です。判断能力がある人へ渡す場合、土地に新たな家を建てることができますし、収益不動産なのであれば相続した人が管理できます。そのため、不動産は有効活用されます。

相続人の中に障害者がいるのであれば、特別な理由がない限り、誰か健常者の親族が建物・土地を単独名義で相続できるように遺言で設定しましょう。この場合であれば、不動産に関わるあらゆる面倒な問題を回避できます。

特定贈与信託で贈与税無税は可能

それでは、障害をもつ子供に不動産を渡すことは可能なのでしょうか。これについては可能であり、例えば特定贈与信託によって無税で贈与できます。障害者を受益者として、信託銀行などの金融機関を財産の管理人(受託者)に設定し、障害者の生活の安定を図る制度が特定贈与信託です。

単なる贈与ではなく、信託契約として不動産の管理を信託銀行などの外部に任せる制度であることは理解しましょう。障害の程度によって非課税枠は異なりますが、特定贈与信託では以下の金額まで無税での贈与が可能です。

  • 特定障害者:生前贈与で6,000万円まで非課税
  • 障害者:生前贈与で3,000万円まで非課税

※出典:国税庁

この非課税枠には不動産も含まれています。建物・土地の評価額が非常に高いと利用できませんが、そうでない場合は事前の贈与によって無税で障害者の子供に贈与できます。

参考までに、以下が特定障害者(6,000万円まで非課税)に該当します。

  • 重度の知的障害者
  • 精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級
  • 身体障害者手帳の障害等級が1級または2級

つまり、ほかの人の助けなしには生きていけない重度の障害者を指します。なお躁うつ病や統合失調症などの精神障害で症状が軽い場合、日常生活に支障はなく、金銭管理もできて判断能力に問題はありません。こういう人であっても、3,000万円まで非課税での贈与が可能です。

信託銀行などを利用した信託契約であり、親亡き後であっても、障害者に対して信託財産(不動産)から生活費が定期的に支払われることになります。

なお注意点として、障害者の生活費を支払うための信託契約であるため、対象となる不動産は収益不動産のみです。例えばマンションでなくても、一軒家であればほかの人に貸すことで利益を生みますが、土地では利益を生みません。特定贈与信託では信託が可能な不動産とそうでない不動産が存在するのです。

障害をもつ人が不動産をもつ場合、家族信託は必須

なお先ほど記した制度を利用しても利用しなくても、実際のところ障害をもつ人が不動産をもつ意味は乏しいです。軽度の精神障害など、判断能力がある場合は何も問題ないですが、重度の知的障害者や精神障害者の場合、不動産を相続しても有効利用できないのが実態です。

それよりも、ほかの親族へ不動産を相続させるほうが適切です。また仮に相続人が障害をもつ子供だけだったり、障害をもつ子供のために収益不動産の利益を利用したかったりする場合であっても、判断能力のない障害者へ不動産をそのまま相続させるのは適切ではありません。

この場合、家族信託を利用しましょう。健常者の子供やその他の親族を受託者として不動産の管理人に指定し、受益者(障害をもつ子供)の預金口座や不動産を受託者が管理できるようにするのです。

特定贈与信託によって障害者の銀行口座にお金が定期的に振り込まれたとしても、障害者が自分で金銭管理をすることができず、判断能力がない場合、銀行口座は事実上凍結されることになります。つまりお金は障害者の口座にお金は振り込まれるものの、そのお金を利用できません。

一方で家族信託を利用していれば、障害者の本人に代わって受託者(健常者の親族)が預金管理や不動産の管理、契約をすべて代行できます。この状態であれば、ようやく障害者の資産を有効利用できます。そのため不動産の相続では、遺言に加えて家族信託も重要になるのです。

複数世代に渡り、不動産の受益者を家族信託で設定できる

なお家族信託を利用する場合、最初の受益者が死亡したら、その後に引き継ぐ受益者を設定できます。例えば「最初の受益者は障害者の妹であるものの、妹が死亡したら健常者の長男、その次は孫(長男の子供)」などの指定が可能です。

遺言では、こうした設定ができません。一方、家族信託であれば複数世代の受益者を設定できるのです。

「受託者として障害のある子供の面倒を見てもらう」とはいえ、親族ではあっても何らかのメリットがないと承諾してくれません。ただその後の報酬(障害者が死亡したら、受託者または受託者の子供に不動産を引き継がせるなど)がある場合、問題なく引き受けてくれやすいです。

家族信託は自由度が高いため、相続人に障害者がいる場合、こうした制度を利用することによって親亡き後問題だけでなく、障害をもつ子供が死亡した後の問題も解決できます。

障害者が相続しても固定資産税の支払いは発生する

なお当然ながら、障害者が建物・土地を相続する場合であっても、固定資産税の支払いは必須になります。すべての不動産には建物・土地の評価額が存在し、以下のような納税通知書が交付されるのです。

こうした通知書に従って納税しなければいけないものの、判断能力の乏しい障害者だと、通知書の内容を理解して納税するのは難しいです。もちろん収益不動産だけでなく、自宅の建物やその他の土地を相続する場合であっても固定資産税の支払いは必要です。

判断能力の程度は知的障害や精神障害の重さによりますが、仮に判断能力がない場合、税金の支払いができません。そうなると非常に不都合な事態に陥ります。納税自体は必ず行う必要があるため、ほかの親族が支払うにしても、本人の銀行口座は事実上凍結されているため、ほかの親族にとっては無駄な出費となります。

このとき家族信託を設定していれば、障害者の代わりに受託者が預金口座を管理できますし、契約の代行が可能です。そのため納税という意味でも家族信託は必須です。

不動産の相続より、現金化するほうがいいかもしれない

なお、遺言などによってほかの子供や孫に建物・土地を相続させる場合であれば特に問題ないものの、重度の知的障害者や精神障害者に不動産を相続させることを考えるとき、不動産の相続ではなく事前に売って現金化してしまったほうがいいケースは多いです。

不動産の価値は大きくなりやすいため、高額な相続税が発生してしまうケースはひんぱんにあります。その場合、障害者は高額な納税義務を生じます。ただ相続した不動産はすぐに現金化できず、たとえ事前に家族信託を設定していても、受託者(健常者の親族)が不動産売却の手続きをして何とか納税資金を用意しなければいけません。

また前述の通り、毎年の固定資産税の支払いが必要になりますし、事前対策がなければ共有名義になってしまうリスクも生じます。

建物・土地を障害者に相続させるというのは、本人やその他の親族にとって非常にリスクが大きいです。それなら、自由に分割できる現金のほうが使い勝手はいいです。そのため不動産にこだわるのではなく、現金化することも視野に入れましょう。

知的障害者や精神障害者での不動産相続を考える

現金とは異なり、建物・土地は自由に売却できないため、流動性が非常に悪いです。これが共有名義となると、まったく売れない負の財産となるリスクがあります。たとえ親族間の仲が良くても、相続人の中に障害者がいる場合、不動産は負の財産に陥りやすいです。

そのため、事前に遺言や家族信託を設定しておくなど、対策が必須になります。成年後見を利用しても負の財産になるのを防げないため、親が生きている間に対策しなければいけません。

最もいいのは、遺言などによって「障害をもつ子供以外にすべての建物・土地を相続させる」という方法です。これであれば、不動産は有効活用されます。一方で障害をもつ子供に不動産を相続させる場合、必ず家族信託を利用しましょう。または、事前に不動産を売ることを検討してもいいです。

不動産の相続では注意点が多く、特に障害者が相続人だとやるべきことがさらに多くなります。これらの対策をしておかないと親亡き後問題を解決できないため、早めに建物・土地の相続対策を行いましょう。

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