障害者が相続人の中にいる場合、親は必ず遺言や家族信託などの準備をしておかなければいけません。そうしなければ親亡き後に親族が成年後見人を設定することになり、最悪の事態に陥るからです。

日本で成年後見人は非常にデメリットの多い制度であり、利用している人はほとんどいません。ただ相続発生により、障害者に対して成年後見人を利用しなければいけなくなるリスクが非常に高くなります。

ただやり方によっては成年後見人の選定を回避できますし、無駄に高額な費用が発生するのも防げます。さらには、成年後見なしによって障害者の自立も促されます。親亡き後問題で最も重要な内容の一つが成年後見人の回避なのです。

そこで、どのように考えて相続・親亡き後に障害者の成年後見人の選定を回避すればいいのか解説していきます。

判断能力がない場合、相続で成年後見人の選定が必須

相続が発生することにより、財産を分けるための協議を法定相続人全員によって行わなければいけません。これを遺産分割協議といいます。

遺産分割協議が成立するためには、相続人全員の承諾が必要です。もし行方不明の相続人の参加なしに遺産分割協議を行うと、この協議は無効になります。それに加えて、「相続人全員の判断能力がしっかりしている」ことが、遺産分割協議が成立する条件になります。

つまり知的障害者や精神障害者などで判断能力がない場合、遺産分割協議が成立しません。

そこで、成年後見人を選定します。成年後見人は判断能力のない障害者に代わって契約の代行が可能です。そのため一般的には、知的障害者や精神障害者には成年後見人が必要というわけです。

知的障害者や精神障害者であっても判断能力はある

なお知識のない専門家に相談すると、「障害者を含む相続では必ず成年後見人の選定が必要」といわれます。ただ実際のところ、たとえ知的障害者や精神障害者が相続人に含まれる場合であっても成年後見人が不要なケースは多いです。

前述の通り、本人の判断能力がない場合に限り、成年後見人が必要です。例えば軽度の精神障害者であれば、症状が出ていない間は健常者と同じであり、当然ながら判断能力はしっかりしています。そのため、成年後見人は不要です。

知的障害者も同様であり、軽度であれば判断能力に問題ありません。たとえ知的障害によってIQが低めであっても、ある程度まで判断できる障害者は多いのです。

例えば小学生は世間一般的に判断能力が低いとされていますが、小学校高学年の児童に対して「親が死亡したので、財産のうち4分の1を分けるが問題ないか?」と尋ねると、何も問題なく理解できます。遺産分割協議の難しい契約内容を理解する必要はないため、こうした判断ができれば十分なのです。

弁護士や司法書士、税理士などの専門家であっても、知識がないと「知的障害者・精神障害者=判断能力がない」と考えてしまいがちです。ただ実際には、そういうことはないため、意思能力や判断能力に問題ない場合は相続発生後であっても成年後見人は不要です。

成年後見人の利用は費用が高く、自由度が少なくデメリットが多い

それでは、なぜ成年後見人の利用を避けるべきなのでしょうか。これは、制度自体に大きな欠陥があり、親族にとってデメリットの多い内容になっているからです。

成年後見人は裁判所が選定します。このとき、親族が選ばれることはほぼありません。8割以上のケースで弁護士や司法書士などの専門家が選ばれます。このとき、専門家への支払いが毎月2~5万円もかかります。しかも、途中で成年後見を解除できず、本人が死亡するまで続きます。

さらに、成年後見人の仕事は「障害者の資産を減らさないこと」です。そのため障害者のお金を親族は使えませんし、障害者が相続した不動産を売るにしても成年後見人は許可してくれません。

成年後見人の選定によって相続時の遺産分割協議は進むものの、法定相続分以上の財産を残さないと認めてくれませんし、その後の財産管理も「資産を使わないこと」に終始するのが基本です。

高額な費用が発生するにも関わらず、専門家の仕事は預金管理や契約の代行だけです。しかも、資産の売却阻止やお金を使わせないことがメインの仕事なので実際に後見行為を行うことは少なく、専門家としては楽で割のよい仕事内容です。ただ利用者にとってデメリットばかりというわけです。

残された障害者の自立も阻害される

より悪いのは、成年後見制度を利用することによって、残された障害者自身の自立も阻害されてしまうことです。

残された障害者というのは、軽度であれ重度であれ、通常は障害者グループホームなどの施設を利用することになります。たとえほかの兄弟がいたとしても、親とは異なり、こうした兄弟が進んで障害者の面倒を毎日見るケースは少ないからです。以下は実際の障害者グループホームの様子です。

施設へ入所する場合であれば、たとえ重度の知的障害者や精神障害者であっても働くのが普通です。働くのは訓練の一環でもあり、働くことでお金を得ることができます。また、障害年金によってもお金が入ってきます。こうしたお金について、施設側が障害者の立場で考え、お金の使い方を障害者へ教えることも可能です。

ただ前述の通り、成年後見人の使命は「本人の資産を減らさないこと」であるため、施設側は本人のお金を利用して指導しようとしてもできません。こうして、本人の自立はより進まなくなります。

成年後見制度というのは、過剰なほど障害者本人の保護をする制度になっています。そのため、結果として親族だけでなく、本人の利益も阻害されやすいのです。

誰が選ばれるか不明でリスクは大きい

なお親族が選ばれる可能性が非常に低いことからわかる通り、裁判所によって指定されるまで、誰が成年後見人になるのかわかりません。

このとき、障害者について理解のある弁護士や司法書士などが成年後見人に指定されるのであれば、まだ問題ありません。ただ実際のところ、弁護士や司法書士の専門性は幅広く、すべての人が障害者に精通しているわけではありません。

また前述の通り、相続の専門家でも「障害者の相続では成年後見人が必要」と間違って認識している人もいます。それだけ、障害者のことは理解されていないのが実情です。

こうした中、障害者に対してほとんど理解していない専門家が成年後見人に指定されるリスクがあります。あなたが成年後見人を選べない以上、これについては完全に運であり、どうしてもリスクが大きくなるのです。

意思能力や行為能力がない場合、遺言で成年後見制度の利用を回避可能

こうしたデメリットがあるため、残された障害者本人や親族に迷惑をかけたくないのであれば、成年後見人を利用しなくてもいいように事前の準備をしましょう。

特に重要なのは、障害の程度が重度の知的障害者や精神障害者です。軽度で判断能力があればいいものの、重度の場合はそうでないケースが多いです。明らかに本人が金銭管理できなかったり、適切な判断ができなかったり、判断能力に問題があるのは普通です。

この場合、相続発生後の遺産分割協議を進めるために成年後見人の指定が必要です。そこでこの状態を回避するため、事前に遺言を利用しましょう。遺言書があれば、遺言に従って遺産分割されます。つまり遺言により、遺産分割協議書の作成を回避できます。

また遺言であれば、遺産分割協議が不要なだけでなく、狙った人に財産を残せるので便利です。例えば重度の知的障害者に自宅を相続させても、実際の生活はグループホームなどの施設になるケースが多く、残った自宅は使いものになりません。そこでほかの子供や孫に相続させれば不動産が活きてきます。

このように、残った財産の有効活用で遺言は優れています。「特定の人に財産を著しく偏らせてはいけない」などの注意点はあるものの、相続人の中に障害者がいる場合、事前の遺言は必須です。

家族信託を利用し、成年後見人なしに資産管理を行う

遺言に加えて、家族信託も利用しましょう。判断能力のない障害者については、自分で金銭管理をすることができないため、銀行口座は事実上、凍結されます。成年後見人を利用すれば預金管理できるものの、本人の財産を減らさないのが彼らの仕事であるため、ほぼ障害者の預金を利用できません。

ただ成年後見制度でなくても、家族信託という方法を利用すれば、障害者本人に代わって預金管理や契約の代行を行えるようになります。例えば親の死後、受託者(健常者の親族)が障害者に代わって金銭管理や契約の代行が可能です。

遺言によって遺産分割協議を回避できるものの、それだけでは不十分であり、前述の通り障害者の資産は凍結されたままとなります。つまり、「障害者が親から相続したお金」を親族が有効利用しようと考えてもできません。そこで、家族信託を行うのです。

なお家族信託は何世代にもわたって財産の移動を指定できます。そのため家族信託を利用すれば、「障害者が死亡し、法定相続人がいないために財産が国庫へ帰属する」という事態を防ぐこともできます。家族信託は成年後見人のように契約を行える人(受託者)を指定できるだけでなく、一族の財産を守ることにもつながるのです。

重度の知的障害・精神障害で成年後見人を選定しないとどうなる?

それでは軽度ではなく、重度の知的障害者や精神障害者、身体障害者、難病患者について、成年後見人を選定することなく遺産分割協議を行う場合はどうなるのでしょうか。事前に親が遺言や家族信託を設定しておらず、死亡してしまい、明らかに判断能力のない障害者が相続するケースです。

例として、母親が死亡して長男(健常者)と妹(障害者)の二人が相続する場面を考えましょう(父親は既に死亡)。

教科書的な話をすると、先ほど解説した通り、障害者に意思能力や判断能力がない場合、遺産分割協議は無効です。ただ実際のところ、成年後見人なしに健常者の長男がすべての手続きを行うことは可能です。相続のとき、すべての相続人に判断能力があるかどうか調べられることはないからです。

こうして、障害者の判断能力が明らかにならないまま遺産分割・相続が完了します。法定相続人である障害者本人には判断能力がないため、本人はクレームを出しません。またよほどのことがない限り、家族の遺産分割に口出ししてくる人はいません。

ただこの場合、後になって大問題へと発展することがあります。

・健常者の長男よりも、先に障害者の妹が死亡するケース

相続人のうち、先に障害者が死亡する場合、特に問題は起こりません。障害者の妹に子供がいなくても、健常者の長男が法定相続人であるため、妹の財産を引き継いで終わりです。成年後見人なしに親の相続を完結させたこともバレません。

・健常者の長男が障害者の妹よりも先に死亡し、成年後見人がつくケース

一方、先に健常者の長男が障害者をもつ妹よりも死亡してしまい、妹(障害者)に成年後見人がつくケースはどうでしょうか。

この場合、障害者の権利を守るため、成年後見人が「以前に行われた遺産分割協議は無効」と考えて裁判を起こすかもしれません。そうなると、残された親族は大変なことになります。

これが、障害者が相続人だと相続が難しくなる理由です。特に親亡き後の対策をしていなかった場合、成年後見人を指定するのは高額な費用がかかって最悪だし、一方で成年後見人を指定しないのもリスクが非常に大きくなるのです。

本当はダメであるものの、判断能力のない障害者がいたとしても、遺産分割協議をしてしまうことは可能です。ただこの場合、大きなリスクが残ることになります。そのため、リスクを少しでも少なくするために遺言や家族信託などが必要になります。

親亡き後の成年後見人の選定は最後の手段

親族にとっても残された障害者本人にとっても使い勝手が悪く、さらには金銭的負担が大きくなる制度が成年後見です。障害者の自立支援すら阻害されるため、可能な限り成年後見人なしに親亡き後の相続をしなければいけません。

このとき知的障害者でも精神障害者でも、自分で判断できる人はたくさんいます。この場合、親の死亡によってわざわざ成年後見人を選定する必要はありません。

一方、明らかに判断能力がない障害者だと、成年後見人が必要になります。成年後見人を選ばない場合、遺産分割協議を進めるのは事実上可能であるものの、大きなリスクが残ります。そこで、事前に遺言や家族信託などの対策が必要になるのです。

相続人の中に障害者がいる場合、事前の対策がないと多くのケースで親族が困ります。成年後見制度の利用はデメリットが多く、本当に困ったときの最後の手段です。そこで障害者本人やほかの親族が困らないよう、成年後見人なしで相続手続きが完了するように対策をしましょう。

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