知的障害者や精神障害者など、症状が重度の場合は判断能力がありません。こうしたとき、相続人の中に障害者がいると、「障害者の相続放棄は可能なのか?」と親族が考えるケースは多いです。
こうしたとき一般的には、成年後見人を選定することになります。ただ実際のところ、成年後見人を選定しても相続放棄できないケースがほとんどです。例外的に、負の財産を相続している場合は相続放棄が可能であるものの、そうでない場合は成年後見人を選定しても意味がありません。
また成年後見人を選ぶと非常に高額な費用が毎月発生するため、負の遺産が多い相続であっても、成年後見制度の利用はあまり現実的ではありません。そこで、ほかの方法を採用することによって相続放棄を考える必要があります。
障害者であっても相続放棄は可能ですが、判断能力がない場合は手続きが面倒です。そこで、どのように知的障害者や精神障害者の相続放棄を行えばいいのか解説していきます。
もくじ
判断能力のある軽度の知的障害者は相続放棄が可能
当然ながら、すべての障害者で判断能力がないわけではありません。軽度であれば、知的障害者であっても判断能力はあります。精神障害者の場合、軽度であれば症状が出ていないときは健常者と判断能力が変わりません。
判断能力のある障害者の場合、たとえ障害者手帳を保有していたとしても、問題なく相続放棄が可能です。
障害の程度は人によって大きく異なりますが、軽度の知的障害者や精神障害者であり、金銭管理ができたり意思決定能力があったりする場合、相続放棄について問題になることはありません。
重度の知的障害者や精神障害者は相続放棄できない
一方、重度の知的障害者や精神障害者であり、明らかに意思能力や判断能力がない場合、相続放棄をすることができません。もし親族が本人に代わって書類を作成し、手続きを代行したとしても、その手続きは無効と判断されます。
契約をするためには、契約内容を理解して、自らの意思でサインする必要があります。このとき重度の障害者では、仮にサインをすることはできても、契約内容を理解できないので無効です。
たとえ知的障害者によってIQが低かったとしても、小学校高学年ほどの知能があれば、「親からの財産を放棄する」ことを理解できます。一方、保育園児に相続の話をしても内容を理解できません。
小学生には一般的に判断能力がないと考えます。ただ簡単な契約内容は理解できるため、年齢は大人で知能レベルが小学校の高学年以上であれば、相続放棄などの契約は問題ないのです。明確な基準はないものの、いずれにしても意思能力や判断能力を基準に相続放棄が可能かどうかを考えます。
成年後見人に依頼しても相続放棄はできない
なおネットなどで情報を検索すると、「相続放棄をするためには、成年後見人を選定する必要がある」と記されているケースが非常に多いです。ただ、多くの場合でこれは間違いです。成年後見人を選定しても、ほとんどのケースで相続放棄はできないからです。
まず、親族が成年後見人に指定されるのは稀です。具体的には、8割以上が弁護士や司法書士など、専門家による成年後見です。裁判所が成年後見人を指定するとき、親族が指名されるケースは少ないのです。
また成年後見人の使命は「障害者本人の資産を減らさない」ことです。そのため親族の利益はまったく優先されません。そのため、例えば「障害者名義の不動産を売却し、施設入所の費用に使いたい」と申し出ても拒否されます。
本人の財産を減らす行為を成年後見人は行わないため、相続が発生して遺産分割協議を行うにしても、障害者が法定相続分以上の財産を引き継ぐことにならないと協議は進みません。当然、プラスの財産に対して成年後見人が相続放棄に同意することはありません。
これが、成年後見人を選定しても実質的に相続放棄できない理由です。プラスの財産への相続放棄は諦めましょう。
借金があるとき、例外的に後見人によって相続放棄が可能
ただ例外的に、成年後見人を利用することによって相続放棄が可能になるケースがあります。親に借金があり、プラスの財産よりも明らかに負の財産のほうが大きいケースが該当します。この場合、相続放棄したほうが障害者によって利益になるため、後見人によって相続放棄が行われる可能性があります。
いずれにしても、成年後見人による相続放棄が行われるのは、障害者にとって利益があるときだけです。
・毎月の高額支払いのため、利用者は少ない
ただ成年後見制度の利用によって負の財産を放棄できるとはいえ、実際のところ、たとえ親に多額の借金があっても成年後見人を選定する親族は少ないです。理由としては、成年後見人を選ぶと月2~5万円と非常に高額な後見人に対する費用が発生するからです。
しかも、一度後見人を選ぶと障害者が死ぬまで解除できません。借金の財産をなくすために成年後見人を選んでも、毎月の高額な支払いが必要になり、障害者にとって負の側面が大きいのです。
親族後見人であっても利益相反行為は禁止されている
それでは、運よく親族が成年後見人に選ばれた場合はどうでしょうか。親族後見人に選定される可能性は低いものの、賭けをすることにより、親族後見人に選ばれた場合、毎月の高額な支払いを回避できます。また、親族が障害者の代わりとなって自由に財産管理や契約を行えるようになります。
ただこの場合、親族後見人は一般的に障害者の兄弟姉妹などであり、相続人も兼ねているケースが多いです。そうしたケースでは、利益相反となって障害者の相続放棄は認められません。
例えば1000万円を相続する場合、障害者が相続放棄すれば、残った親族にすべての財産が移動します。ただこれは利益相反行為に該当するため、相続放棄が却下されるというわけです。
一方、負の財産であれば、親族後見人が相続人であったとしても、例外的に相続放棄が認められます。例えば親が多額の借金を背負っているとき、「障害者と親族後見人(健常者の相続人)の両方とも相続放棄する」という場合、例外的に利益相反行為にならず、相続放棄が認められます。
要は、借金などの負の財産を放棄するときのみ有効になります。
障害者のみ相続放棄をせず、実質的な相続放棄を行う
ただ実際のところ、親族後見人になるようイチかバチかの賭けを行い、成年後見人を依頼する人は稀です。高確率で専門家の成年後見人が選ばれるため、たとえ負の財産を障害者が放棄したとしても、その後に専門家への高額な支払いが一生続くからです。
成年後見人という負の財産を背負うのであれば、親の借金の相続放棄を行えたとしても意味がありません。そのため、たとえ親に高額な借金があったとしても、「健常者は全員が相続放棄を行うものの、障害者は相続放棄をしない」のが現実的です。
重度の知的障害者や精神障害者の場合、保有財産はもともと少ないです。また認知能力はないため、たとえ障害者が借金を相続したとしても、取り立てできる財産は存在せず、実質的に相続放棄をしているのと同じ状態になります。
借金の返済というのは、実際に現金がなければ行うことができません。そのため重度の障害者であれば、親の借金放棄について、必ずしも財産放棄の手続きは必要ないのです。
・障害者が死亡した場合の法定相続人は注意が必要
なお後見人なしで実質的に相続放棄が可能とはいっても、その後の手続きに注意しましょう。具体的には、健常者の兄弟より先に障害者が死亡した場合、再び相続放棄が必要になります。
障害者が死亡すると、借金は次の法定相続人が背負うことになります。障害者の兄弟姉妹は法定相続人であるため、障害者の死亡に伴い、「親が死亡したときと同様に、相続放棄をしなければ借金が移ってしまう」ことを意識しましょう。
障害者の相続放棄と後見人なしの対応を学ぶ
相続人の中に障害者がいる場合、通常の相続とは違って面倒な事態になります。そのため、親亡き後にどのような対応をしなければいけないのか知っておかなければいけません。
このとき相続放棄については、障害者本人の判断能力がなければいけません。成年後見人を利用すれば契約の代行が可能ですが、プラスの財産について後見人は相続放棄を認めません。そのため、実質的に相続放棄は無理です。
例外的に、負の財産については後見人が相続放棄をしてくれる可能性があります。ただ成年後見人制度の利用は毎月の費用が大きく、この制度の利用自体が負の財産になるため、多くの人は後見人なしでの対応を考えます。そこで借金の相続を回避したい場合、障害者以外の相続人のみ相続放棄を行い、実質的に相続放棄と同じ状態にしましょう。
なお障害者が死亡した場合、再び負の財産の相続が発生します。そのため相続放棄が再度必要になる可能性を考えましょう。こうして、障害者の相続放棄や健常者(その他の相続人)の相続放棄を検討する必要があります。
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