障害者グループホーム(共同生活援助)を開設したり、継続して経営したりするに当たり、どのような売り上げになるのか気になります。
実際のところ、障害者グループホームは利益率がそこまで高いわけではありません。また、必ず棟数を複数に増やしていく必要があります。そうでないと、まったく儲からないどころか赤字経営になってしまうからです。
それでは、障害者グループホーム経営での収入や利益、コストはどのようになっているのでしょうか。現実的な内容について、シミュレーションすることで売上や利益率を含めて解説していきます。
もくじ
国からの補助金で成り立つ共同生活援助
すべての障害福祉サービスに共通しますが、国からの補助金で事業が成り立ちます。特に障害者グループホームの場合、ほぼ100%のお金が国からの補助金で成り立っているという側面があります。
障害者グループホームを利用する人のほとんどは住民税の非課税世帯や生活保護です。これらの人はサービス料が無料なため、障害者グループホームを手軽に利用できるのです。一方で課税世帯はサービス料が月37,200円であり、賃貸マンションに住むよりも高くなってしまいます。そのため、低所得者がターゲットになります。
このとき、障害者グループホームを利用するときは区分が必要になります。区分は1~6まであり、数字が大きいほど重度を表します。
当然ながら、区分の大きい障害者を受け入れるほど国から得られるお金は大きくなります。また、「何人が入居できる棟なのか」「その他の加算はどうか」などの違いはありますが、ザックリと月の報酬(サービス料)は以下のようになると考えましょう(補足給付と処遇改善加算を除く)。
- 区分1:月14万
- 区分2:月18万
- 区分3:月22万
- 区分4:月28万
- 区分5:月32万
- 区分6:月39万
例えば軽度・中等度の人をターゲットとして区分1~4までの人を受け入れる場合、一人当たり月20万円ほどの売上になると考えればいいです。そのため、4人を受け入れる場合は月80万円の収入になります。
少ない棟数では利益がほぼゼロ
そのため実際にシミュレーションを行うと、一棟だけではまったく儲からないビジネスモデルになるとわかります。例えば以下の一軒家(賃料20万円)を借り、5人満床のシェアハウスとして運営するパターンを考えましょう。
現実的に見積もり、満床率80%とすると4人が入居することになります。4人が賃料をそれぞれ4万円支払ってくれるため、16万円の賃料を受け取り、差額の4万円の家賃は事業主負担になります。また、税理士費用として月4万円が出ていくとします。
さらに、世話人を兼務するサービス管理責任者の人件費が必要です。月30万円の給料を出すとなると、社会保険料やその他の経費で倍の費用が発生するため、月60万円の支出になります。そのため、月のランニングコストは以下のようになります。
- 家賃負担:月4万円(残り16万円は利用者が払ってくれる)
- 税理士費用:月4万円
- 人件費(一人分):月60万円
さらに、その他の経費の発生を非常に少なく見積もって12万円とすると、月80万円の経費発生となり、売上と相殺すると利益ゼロになります。社員の給料やその他の経費で売上はすべて消え、経営者の役員報酬はゼロとなります。
また、これは満床率80%と良いシミュレーションでの結果になります。そのため、利用者がいなければ常に赤字となります。しかも、障害者グループホームでは初期費用が発生するため、棟数が少ないとその回収もできません。
障害者グループホーム経営では、どれだけ少なくとも2棟目は必須です。1棟目だけだと、サービス管理責任者の人件費だけですべての利益が消えるからです。
障害者グループホームの開設では、それなりに高額な初期費用が必要です。利益ゼロだと、初期費用すら回収できません。そのため、障害者グループホームで儲からずに行き詰ります。
20人以上を入れる場合はビジネスモデルが成り立つ
そこで、棟数を増やすことを考えましょう。サービス管理責任者一人に対して、利用者(障害者)を30人まで入居させることができます。そこで、5棟を運営することで20人を入居させる場合を考えましょう。
先ほどと同じ条件とすると、月の売上は400万円です。
- 20人 × 月20万円 = 月400万円
ただ収入に加えて、経費を考慮しなければいけません。例えば、空室率80%だと以下のランニングコストになります。
- サービス管理責任者の人件費(1人分):月60万円
- 世話人の人件費(4人分):月160万円
- 空き部屋分の家賃負担:月20万円
- 税理士費用:月5万円
- その他の経費:月25万円
こうして月270万円の費用が発生するため、月の売上400万円から引くと、手残りは月130万円です。こうした利益が残れば、高めの役員報酬を出しても問題ありません。
一般的な利益率は5~20%ほど
それでは、実際のところ障害者グループホーム経営での利益率はどれくらいになるのでしょうか。先ほどの計算でわかる通り、「何人の利用者を入居させるのか」によって収益は大きく変動します。
通常、人件費は同じです。特にサービス管理責任者の人件費が高いため、一人のサービス管理責任者に対して多くの入居者を付けるのが重要になります。ただ固定費は同じであるものの、利用者が増えれば国保連から得られるお金が増えるため、結果として売上・利益が大きくなりやすいです。
1棟(定員5人)だけの運営だと、利益ゼロどころか、入居者が少ないと利益率がマイナスになってしまうのは普通です。そのため、まったく儲かりません。一方で1~2年の時間をかけ、入居者を増やしていって2~3棟目と増やしていくと、利益率は5~15%ほどになると考えましょう。
また、より棟数を増やしていくと利益率20%超も可能です。共同生活援助の開設・経営で儲かるためには、どうしても棟数が必要です。そこで、利用者を定着させて増やしていく努力が必要になります。ただ、棟数を増やして入居者を20人以上にするには、数年の時間がかかると考えましょう。
素早く満床にするのが最も重要
こうした事実を考えると、共同生活援助の経営で収入を確保するためには、利用者の獲得&定着が非常に重要とわかります。
ただ実際には、障害者グループホームを開設しても利用者がなかなか集まらないケースがよくあります。例えば当サイトは障害者グループホームへ利用者の紹介サービスをしており、以下は実際に当サイトへの問い合わせをしてきた事業者です。
人口がそれなりに多い都市(北九州市)であるにも関わらず、利用者集めに苦戦しているケースです。共同生活援助を開設しても、「半年後に1人しか入居していない」など、ほとんど利用者からの問い合わせがないのは普通です。
先ほど、満床率80%で収入や経費、利益を計算しました。ただ、満床率80%は圧倒的に優れた結果であり、実際にはこれほどうまく利用者が定着するケースは少ないと考えましょう。現実には、利用者集めに苦労している事業所はいくつも存在します。
そこで障害者グループホームの経営を考えるのであれば、同時に利用者集めも本気で取り組みましょう。できるだけ早く満床にすれば、その分だけ棟数を増やす足掛かりにできますし、入居者が増えれば利益率も大幅に改善していきます。
障害者グループホームで儲かる・儲からないの分かれ目は「どれだけ入居者を集め、定着させられるか」にかかっています。そのため1~2棟で満足するのではなく、多くの棟数を増やしていくことを見据えて共同生活援助の経営を行いましょう。
共同生活援助のビジネスモデルを理解する
障害者グループホームを経営するに当たり、どうしても固定費が大きくなります。特に一棟目は利益率ゼロであったり、むしろ赤字だったりするケースは普通です。
サービス管理責任者の人件費を上回る利益を出すためには、棟数を多くして入居者を増やしていく必要があります。これにより、利益率5~15%が可能になります。またサービス管理責任者に対して、20~30人の入居者を付けることができれば、利益率20%超も可能です。
入居者が少ない場合、共同生活援助は儲からないです。一方、しっかりと障害者と向き合って定着させていき、利用者が増えれば利益率が改善され、多少は儲かるようになるかもしれません。
ビジネスモデルが国からの報酬であり、報酬額が区分に応じて決められているため、収入を大きくするには利用者を増やすしか方法がありません。そこでサービス管理責任者の人件費よりも大きな売り上げを出すため、棟数拡大や入居者の集客を視野に入れましょう。