障害者グループホーム(共同生活援助)を運営するとき、フランチャイズという方法があります。一般的には自力で障害者グループホームを立ち上げるものの、障害者福祉の経験がない場合、他の人の力を頼るというわけです。

フランチャイズのメリットとしては、ノウハウを共有してくれることがあります。ただ加盟金やロイヤリティなどにより、利益が大幅に圧迫されるというデメリットもあります。

利益に大きく関わるため、フランチャイズへの参加は慎重になる必要があります。また、フランチャイズへ加入する前に絶対にやっておくべき事柄があります。そこで、障害者グループホームのフランチャイズについて、どのように考えればいいのか解説していきます。

共同生活援助でフランチャイズという選択肢

障害者グループホーム(共同生活援助)の立ち上げでフランチャイズを考える人はほぼ100%の確率で別業界から参入する会社になります。既に障害者福祉について理解している人がフランチャイズを利用するメリットはゼロだからです。

実際のところ、フランチャイズなしでも何も問題なく運営できるのが障害者グループホームです。

まず、利用者(障害者)は施設名で入居を検討することはなく、「立地や間取り、規則の緩さ、病院からの距離」などを重視します。飲食店やスポーツジムとは異なり、店の看板の重要度はゼロと考えていいです。

またコンビニや飲食店のように「本部から食材が送られてくる」などのようなことがなければ、スポーツジムのように「他店舗の加入者も含めて、自分の店舗を利用してくれる」こともありません。そのため、一般的なフランチャイズに比べると障害者グループホームでフランチャイズに加入するメリットは薄いのが実情です。

開設時の経営ノウハウ共有が一番のメリット

ただ、それでも障害者グループホーム(共同生活援助)でフランチャイズに加入する企業があるのは事実です。このとき、一番大きなメリットは開設時の経営ノウハウの共有です。

障害者グループホームの経営では、つまずく点がいくつもあります。その一つが開業です。国から報酬を得る以上、以下の点を満たす必要があるのです。

  • 人員の基準を満たす
  • 建築基準法や消防法の基準を満たす
  • 大家や保証会社の許可をもらう

共同生活援助には人の配置基準があり、例えばサービス管理責任者を必ず配置しなければいけません。

また一部屋の大きさに決まりがありますし、建築基準法や消防法を満たす必要があります。例えば、すべての障害者グループホームで以下のような設備が必須です。

さらに、物件探しにも苦労します。大家を説得することはできても、ほとんどのケースで保証会社からの許可が下りないからです。

また、そもそも障害者グループホームを設置できない区域も存在します。そのため、何でもいいので物件を探しても意味がありません。行政とやり取りしながら、さらには条件に合う物件探しをする必要があり、開業可能な物件を見つけるのは困難になりやすいのです。

そうしたとき、フランチャイズに加入していると開設時のサポートを受けることができます。開設後のサポートはあまり期待せず、自らの努力で共同生活援助の運営を考える方がいいです。ただ、開設時についてはフランチャイズの力が大きな力になります。

加盟金と売上の3~5%を取られるデメリット

それに対して、フランチャイズに加盟するデメリットとしては何があるのでしょうか。一番大きなデメリットとしては、加盟金やロイヤリティの支払いにより、利益を大幅に圧迫してしまうことがあります。

どの会社のフランチャイズに加盟するのかによって異なりますが、一般的には以下のようになります。

  • 加盟金:400万円など
  • ロイヤリティ:売り上げの3~5%

ただ現実的な話をすると、障害者グループホームの利益率はそこまで大きくないため、特に最初はフランチャイズ加盟によって苦労します。

例えば、以下のようなシェアハウス(5人入居可能)な物件を月20万円にて借りて、障害者グループホームを運営することを考えましょう。

この場合、初期費用(賃貸、消防設備、採用費用、家具家電)などを低く見積もって500万円ほどになります。

それに加えてランニングコストが発生します。仮に5人定員のうち4人(区分1~4)が入居し、一人につき平均月20万円を国から得られるとします。この場合、月の売上は80万円ですが、以下のランニングコストが発生します。

  • 賃料負担:月4万円
  • 税理士費用:月4~5万円
  • 人件費(一人分):月60万円

利用者4人が家賃16万円を支払ってくれるため、残りの家賃負担は月4万円です。また、すべての法人で税理士費用(月4万円など)が発生します。さらに、サービス管理責任者の給料が月30万円とすると、社会保険料やその他の経費で2倍のコストが発生するため、人件費は月60万円です。

また、その他の細かい経費の発生が12万円だとすると、経費が月80万円となり、売上80万円がすべて消えてしまいます。この場合、利益ゼロです。

また、これは満床率80%とかなり良い内容でのシミュレーションであり、「初期費用を考慮せず、その他の経費が月12万円と非常に少ない」というあり得ない状況での算出であることを忘れてはいけません。

ここから加盟金やロイヤリティを支払うと、当然のように大赤字となります。二棟目や三棟目と増やしていき、利用者が多くなれば、固定費(サービス管理責任者の人件費)は一定なので利益は増えていきます。ただ、特に最初の段階では障害者グループホームの経営は厳しいです。

フランチャイズ加盟を検討するとき、規模が小さい段階であるほどキャッシュフローが悪くなりやすく、リスクが高いことは理解しましょう。

利用者集めは自ら行う必要がある

なお、障害者グループホームのフランチャイズ加盟で最も役に立つのは最初の立ち上げのみと考えましょう。その後の運営については、基本的に自ら考えて行う必要があります。例えば、利用者(障害者)の集客は自ら行わなければいけません。

すべてのフランチャイズについて共通しますが、「本部が利用者を集めてくれる」というのは確実にありません。

例えば、当サイトでは障害者グループホームに対して利用者集めのお手伝いをしており、非常に多くの問い合わせを受けています。以下はそのうちの一つの例です。

当サイトの利用先には有名なフランチャイズ加盟施設もたくさんあります。フランチャイズ本部が集客してくれるなら、当然ながら当サイトを頼る必要はありません。ただ実際には、非常に多くの施設が登録しています。

ビジネスで最も難しいのは集客であるものの、集客は自ら行う必要があります。「フランチャイズ本部が何とかしてくれる?」と考えていると、ほぼ確実に障害者グループホームの経営で失敗します。

人材確保も自ら行う必要がある

同様に人材(スタッフ)の確保も自ら行う必要があります。フランチャイズ本部が人材確保をしてくれるというのは基本的にないからです。

もちろん、本部は「フランチャイズ本部のサイトに求人を載せる」ことを承諾してくれます。ただ、本部のサイト経由で「あなたが運営する地域の求人に引っかかってくる人」は皆無です。

これについては、よく考えれば当然です。例えば神戸市で障害者グループホームを開設するとして、東京に本社のあるフランチャイズ本部の求人サイトから「神戸で働きたいスタッフが都合よく応募する」かというと、そのようなことはありません。

神戸でスタッフを集めたい場合、地元の求人募集に特化した広告を出す必要があります。または、地元の知人に声掛けして求人募集してもいいです。いずれにしても、人材募集もフランチャイズ本部に頼るのをやめましょう。

ノウハウゼロからの開設はコンサルティング依頼が必須

利用者集めや人材確保を自ら行わなければいけない事実を考えると、どうしても他の業界に比べると、障害者グループホームでフランチャイズに加盟するメリットは薄くなりがちです。フランチャイズに加盟するメリットは基本的に開設時のみだからです。

そうはいっても、自力で障害者グループホームを開設するのは実際のところ現実的ではありません。実際の開設では、以下のような書類を提出する必要があり、ヒントなしでは何をすればいいのかわかりません。

また物件探しに非常に苦労します。そうしたとき、フランチャイズ以外の方法で開設時のサポートを誰かに依頼できるかというと、これについては問題なく可能です。「障害者福祉の開業に詳しい行政書士へ依頼する」などによっても解決可能です。

要は、開設サポートのとき、コンサルを依頼するか、フランチャイズに入るかの違いと考えましょう。コンサルティングだけで問題ないと思えば、フランチャイズに加盟する意味はありません。

一方、それでもフランチャイズに加盟することで指導を受けたい場合、加盟金やロイヤリティは発生しますが、加盟すれば問題ありません。

・日中支援型グループホームなど、難易度が高い業態は価値あり

なお障害者グループホームの中には、重度の人のみ受け入れる日中支援型グループホームもあります。他業種からいきなり日中支援型グループホームを開設するのは現実的ではないものの、最初からこうした難しい業態に挑戦してみたい場合、フランチャイズに加盟するのは大きな意味があるかもしれません。

ただ一般的な障害者グループホーム(介護サービス包括型)の開設を検討する場合、フランチャイズへの加入が適切かどうか慎重に判断しましょう。

立ち上げよりも継続のほうが重要

なお実際のところ、障害者グループホームで最も重要なのは立ち上げた後の運営です。障害者を受け入れるため、管理が非常に大変なのです。また、スタッフの育成や採用も大きな労力が発生します。

例えば以下は、実際に障害者グループホームを運営している経営者であれば多くが経験する内容です。

  • 利用者が暴れ、警察の厄介になる
  • 窓を割って利用者が脱走し、警察を巻き込んでの大捜索に発展する
  • 海上保安庁から「あなたの利用者がいたずら電話を何度もかけるため、法的措置を取る」といわれる
  • スタッフが転職するとき、裏切りによって利用者も連れて行ってしまう

これらは一部になりますが、あなたが予想もしない出来事が日常茶飯事で発生するのが障害者グループホームです。実際のところ、開設よりも重要なのは「障害者グループホームを継続して運営できるか」「どうトラブルに対処すればいいのか」というノウハウです。

お金を支払ってでも現場を事前に経験するのは重要

そのため障害者グループホームを経営したい場合、開設時の心配をするよりも、本来は開設後の継続を心配するべきです。開設よりも、継続のほうが大変だからです。

そこで、異業種から障害者グループホームへ参入する場合、おすすめは「お金を支払ってもいいので、知り合いの障害者グループホームで無償にて働かせてもらう」ことがあります。

知人をたどれば、障害者施設の経営者と会うのは簡単なはずです。そこで、障害者グループホームの経営者に依頼して現場を経験するのです。理想は1年以上ですが、現場経験のために多くの時間を使うのは現実的ではないため、3か月でもいいので無償で働くといいです。

現場で働けば、障害者グループホームの経営で何が必要なのか把握できるようになります。例えば以下になります。

  • 障害者にどう接すればいいのか(トラブル時の対応を含む)
  • 利用者の見学対応や定着させるコツ
  • 必要な設備は何か
  • スタッフ管理やシフトはどうすればいいのか
  • 夜勤で何をすればいいのか
  • 食事作りはどうしているのか

また、障害者グループホームで無償にて働かせてもらえば、経営者と必然的に親しくなるため、開設時のノウハウや物件探しのコツも得ることができます。

これら運営時に必要な内容を学んだあと、ようやく「フランチャイズへの加盟が必要か」を考えましょう。フランチャイズに加盟しても、利用者との接し方やスタッフ管理を理解していないと共同生活援助を継続運営できません。そこで、まずは障害者グループホームを継続させる運営方法を現場から学ぶのです。

そうしたうえで「フランチャイズへの加盟が最適」と判断したのであれば、フランチャイズへ加盟すれば問題ありません。また一つではなく、複数のフランチャイズを見学しましょう。いずれにしても、フランチャイズへ加入する前に「現場を経験する」ことで、フランチャイズが必要かどうか適切に判断できるようになります。

共同生活援助のフランチャイズを考える

飲食店やコンビニなどであれば、フランチャイズ加盟は大きな意味があります。店の看板によって集客できますし、食材がフランチャイズ本部から届きます。

一方で障害者グループホームの場合、看板での集客は関係ありません。また利用者集めやスタッフ募集は自ら行う必要があります。そのため一般的なフランチャイズに比べるとメリットは薄く、役立つのは開設時がメインです。

また、最も重要なのは現場を経験することで「継続して施設を運営するノウハウを知る」ことです。そこで、お金を支払ってもいいので無償にて、どこかの障害者グループホームで働かせてもらいましょう。その後、フランチャイズへの加盟が必要かどうか判断すればいいです。

実際のところ、障害者グループホームの開設では、フランチャイズ加盟で大きいメリットを得られるわけではありません。こうした事実を理解したうえで、フランチャイズ加盟が最適かどうか判断するといいです。

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