ケガや病気によって働けなくなったとき、生活費を得るための給付金として傷病手当金や労災保険があります。働けないときにお金を得られるという意味では、傷病手当金も労災保険も同じです。
ただ、当然ながらその中身は異なります。傷病手当金と労災保険について、どちらか一方を好きに選べるわけではありません。そうはいっても、傷病手当金と労災保険の中身を事前に理解し、違いを把握するのは重要です。
それでは、傷病手当金と労災保険の違いは何があるのでしょうか。両社を比較しながら解説していきます。
もくじ
業務中の傷病かどうかで判断される
ケガや病気によって働けず、給料が支払われないときに得られる給付金が傷病手当金や労災保険です。このとき、どちらを利用するのかは以下の違いがあります。
- 傷病手当金:業務外の傷病で利用
- 労災保険:業務中(通勤中を含む)の傷病で利用
仕事が原因による傷病かどうかによって、傷病手当金なのか、それとも労災保険なのか変わってきます。当然、本人が自由に選択できるわけではなく、どのタイミングでケガや病気をしたのかによって自動的に傷病手当金なのか労災保険なのか決まります。
労災はアルバイトを含め、対象者が広い
このとき、傷病手当金のほうが対象者は少ないです。社会保険に加入している人のみ傷病手当金の対象になるからです。
会社員・公務員の場合、全員が社会保険に加入しています。一方でアルバイト・パートや派遣の場合、ある程度たくさん働いている人のみ社会保険に加入することになります。労働時間が少ない場合は社会保険の加入者ではなく、こうした状況では傷病手当金の対象外です。
一方で労災保険については、すべての労働者が対象になります。つまりアルバイト・パートや派遣を含めて、あらゆる場合に労災認定されれば給付金を得られます。
実際のところ、労災よりも傷病手当金を利用するケースのほうが多いです。ただ、仕事中のケガや病気であれば、雇用形態に関係な労災を利用できます。
労災のほうが傷病手当金よりも有利
それでは、傷病手当金と労災ではどちらのほうが有利なのでしょうか。これについて、労災のほうが有利です。理由としては、受け取れる金額や期間が労災のほうが大きいからです。
項目 | 傷病手当金 | 労災保険 |
対象者 | 業務外の傷病 | 業務内の傷病 |
社会保険への加入 | 必須 | 不要 |
給付金の額 | 給料の3分の2 | 給料の80% |
給付期間 | 1年6か月 | 治癒(症状固定)まで |
傷病手当金では、給料の3分の2(約67%)が支給されます。それに対して、労災保険の給付額は給料80%です。
また、傷病手当金では期間が1年6か月までと決まっています。一方で労災保険では、治癒(症状固定)まで支給となります。仮に労災保険で1年6か月を過ぎてもケガや病気が治っておらず、傷病等級に該当する場合、傷病補償年金(傷病年金)の対象になります。
つまり傷病手当金に比べて、労災保険では給付期間が長くなっています。このように、金額でも期間でも労災保険のほうが有利です。
精神疾患はほぼ傷病手当金となる
なお大きなケガによって傷病手当金や労災保険を活用するケースはあるものの、最も一般的なのは精神疾患の発症による休業です。うつ病や統合失調症などのメンタル不調によって十分に働けなくなるのです。
これら精神疾患では、労災保険ではなく傷病手当金を活用するのが一般的です。実際には仕事上のストレスで精神疾患を発症したとしても、仕事との因果関係をつなげるのは困難ですし、会社と裁判でもしないと会社側は認めてくれません。
また、働けないほどの精神症状の人が弁護士を雇い、会社側に労災であると認めさせるのは労力が大きいです。
そのため労災保険を利用したいと思っても、精神疾患については現実的に傷病手当金を利用します。労災保険の利用というのは、仕事中のケガを含めて、明らかに業務中の傷病であると明確なときに有効であるケースが多いです。
両者の併用はできない
なお業務外(傷病手当金)と業務中(労災保険)のように、傷病を受けたタイミングによって明確に区別されていることから、両者の併用はできません。両方へ申請してもいいですが、得られるのはどちらか一方です。
また給付金の併用という意味では、その他の給付金との併用もできません。例えば傷病手当金や労災保険について、以下の給付金へ申請しても金額は調整されます。
- 障害年金
- 失業手当
これらは金額が調整されます。複数の給付金を併給できる場合、働いているときよりも得られる金額が大きくなります。そのため、同じタイミングでの給付金の併用はできないと考えましょう。
傷病手当金と労災保険は異なる
身体障害者や精神障害者となってしまい、働けず給料を得られないときに傷病手当金や労災保険が有効です。給料がなくても、これらの給付金によって生活できます。
業務外の傷病で得られる給付金が傷病手当金であり、業務内の傷病が対象になるのが労災保険です。金額や給付期間を確認すると、傷病手当金よりも労災保険のほうが有利です。ただ、労災保険を自由に選択できるわけではなく、傷病手当金が対象になるケースは多いです。
なお、傷病手当金と労災保険の併用はできません。両方へ申請するのは可能であるものの、利用できるのはどちらか一方です。
働けないときに利用する給付金について、傷病手当金と労災保険の違いは重要です。そこで、これらの内容を理解して、どちらか一方を活用しましょう。