福祉業界の中でも、初期費用を抑えて開設できるのが障害者グループホームです。ただ初期費用が低いとはいっても、ある程度の立ち上げ費用はかかります。

このとき、建物の新規建築を考えてはいけません。初期費用が膨大になるからです。そこで、通常は賃貸を利用することで障害者グループホームとして運営します。また、主なコストは法人維持費や人件費になります。

賃料も大きなコストではありますが、満床に近づくと費用負担は大幅に減ります。そこで、どのように考えて障害者グループホームの開業費用を用意すればいいのか解説していきます。

土地や建物を取得するケースはほぼない

すべての障害者グループホーム(共同生活援助)について、建物を利用しなければ経営できません。障害者に対して、寝泊まりする場所を提供する福祉事業が障害者グループホームです。

このとき、土地や建物を取得して運営する会社は少ないです。理由としては、初期投資額が非常に膨大になってしまい、リスクが大きすぎるからです。たとえ地方都市であっても、土地と建物を合わせて、一軒家のシェアハウスで5000万円ほどの支出になるのは普通です。

また実際のところ、棟数を増やさないと障害者グループホームで利益を出すのが難しいです。一つの棟で高額なお金を出していると、2棟目を出すのは厳しくなります。

そこで特別な理由がない限り、賃貸物件を利用して障害者グループホームを運営します。例えば以下は実際の障害者グループホームであり、同じように大きめの民家またはアパートを利用することで開設するのです。

当然ながら、賃貸物件を活用するので費用が発生します。通常、賃貸を借りるときは敷金や礼金、前家賃などを含め、賃料の5倍の初期費用が発生します。

参考までに、以下は5人が入居できる一軒家(6LDK)での障害者グループホームに関する賃貸借契約書です。

千葉の田舎にある一軒家ですが、月21万3120円の家賃です。そのため、賃貸物件を契約するために約100万円の初期費用が必要になります。

日中支援型グループホームでも賃貸が基本

なお一軒家やアパート、マンションに限らず、基本的にはあらゆる障害者グループホーム経営で賃貸物件を利用するほうがいいです。例えば以下は完全バリアフリーにて運営されている日中支援型グループホームです。

この障害者グループホームは賃貸にて運営されています。家賃は月100万円ほどになりますが、日中支援型グループホームであっても賃貸が基本になります。

「元々が建築会社であり、コストを抑えて土地取得や建築ができる」という会社であれば、例外的に新築にて共同生活援助を経営しても問題ないかもしれません。ただそうでない場合、特別な理由がない限りは賃貸にて運営しましょう。

共同生活援助の初期費用やランニングコスト

なお障害者グループホームは老人施設とは異なり、初期費用が低いです。利用者の多くは精神障害者や知的障害者であり、身体機能に異常のない人が多く、建物がバリアフリーでなくても問題ないです。そのため、大規模なリフォームが不要です。

そうしたとき、障害者グループホームの立ち上げでは以下の初期費用やランニングコストを考慮しなければいけません。

  • 家賃
  • 法人関係
  • 消防設備&家具・家電
  • 人件費

家賃については既に解説しました。そこで、法人関係の費用や消防設備・家具、人件費について確認しましょう。

法人登記と税理士の費用

国からの報酬で成り立つビジネスが障害者グループホームです。そのため、障害者グループホーム(共同生活援助)を運営する場合は法人格が必須です。

既に法人を運営している場合、特に問題ありません。ただ障害者用の法人を用意する必要がある場合、法人登記費用が必要になります。一般的には、司法書士に依頼する法人登記費用は約20万円です(設立する法人の形態によって異なる)。

また法人では必ず税理士を雇う必要があり、安く見積もって年50~60万円の費用になります。税理士の費用は毎月、必要になるのに加えて、決算月に大きなお金が必要になります。

消防設備の設置や家具・家電の購入が必要

すべての障害者グループホームについて、自動火災報知機や誘導灯の設置が必須になります。この費用については、90〜100万円ほどと考えましょう。

また通常、障害者グループホームでは家具備え付きとなり、利用者は洋服や日用品(歯ブラシなど)など必要最低限の荷物をもってくればすぐに生活できるようにしておきます。そこで、それぞれの部屋や共用設備について以下の家具購入が必要になります。

  • ベッド
  • エアコン
  • 机・イス
  • カーテン
  • 共用設備:冷蔵庫、洗濯機、テレビ、コンロ、ソファなど

このとき、「各部屋を家具付きにしない」という選択肢もあります。ただ障害者グループホームへ入居する利用者のほとんどは低所得者であり、家具の購入費用がありません。そのため、家具なしの施設は利用者を逃す可能性が高くなります。

また、他にも傘たてや靴箱、洗剤、そうじ用具、調理器具などの備品も共用部分に必要です。これら家電製品や家具、その他の備品を各部屋・共用部分に設置するとなると、200万円ほどは必要になります。

サービス管理責任者の人件費と採用費が必要

また、障害者グループホーム(共同生活援助)の開設では必ずサービス管理責任者の設置が必須です。サービス管理責任者がグループホームの世話人を兼務するとして、この人件費を出さなければいけません。

給料を月30万円とすると、こうした人件費が必要になります。経営者自身がサービス管理責任者の資格者であるケースは稀であるため、資格保有者を採用しなければいけません。

なお給料を出す場合、社会保険料(企業負担)やその他の経費が必要です。一般的には、一人の社員を雇うのは給料の2倍のコストがかかるといわれています。そのため、月給30万円のサービス管理責任者を一人雇うときのランニングコストは月60万円ほどです。

・通常、採用には大きなコストが必要

また人材紹介会社を経由して採用する場合、一般的な報酬は年収の30%ほどです。そのため、一人につき100~150万円の採用コストが発生します。または、求人サイトへ掲載する場合は掲載料として30~40万円の費用が発生するのは普通です。

自分の人脈を利用してサービス管理責任者を採用する場合、採用に関する初期コストは不要です。ただ通常は求人サイトを活用するため、こうした費用が必要になります。

初期費用やランニングコストはいくら?

初めて障害者グループホームを立ち上げするとして、家賃20万円、人件費30万円とすると、ザックリと以下の初期費用が必要になります。

  • 賃貸契約:100万円(家賃の5倍)
  • 法人登記:約20万円
  • 消防設備:90~100万円
  • 家具・家電製品:約200万円
  • サービス管理責任者の採用費用:100~150万円

契約する一軒家やアパートの規模によりますが、少なく見積もっても500万円ほどの初期費用が発生します。また、これに加えて以下のランニングコストが発生します。

  • 賃料:月20万円
  • 税理士費用:月4~5万円
  • 人件費(一人分):月60万円

ザックリと月85万円の現金が出ていくことになるため、こうした支出があっても問題ないようにキャッシュフローを考える必要があります。

満床に近づくほど、賃料負担は少なくなる

なお家賃については、利用者(障害者)が増えるほど負担が少なくなっていきます。利用者が家賃を支払ってくれるからです。

例えば家賃が月20万円の場合、5人が入居できる一軒家とすると、利用者一人あたりの家賃負担は月4万円です。

障害者グループホーム経営をするとき、利用者に対して通常よりも高い費用を請求してはいけません。そのため今回の例だと、月4万円を超えての家賃請求は不可です。ただ、月4万円の家賃負担を利用者がしてくれるというわけです。

そのため満床に近づくほど、賃料負担は少なくなります。例えば月20万円の一軒家(5人で満床)に4人の利用者が入居する場合、利用者4人が月16万円の家賃を支払ってくれます。そのため、事業所側の家賃負担は月4万円になります。

利用者が増えるほど国へ請求することができ、さらには家賃負担が減ります。税理士や人件費などの固定費を抑えることはできないものの、利用者を増やすことで家賃負担を抑えることができます。そのため、可能な限り素早く満床に導くのが障害者グループホームの立ち上げで重要です。

水道光熱費や日用品費、食費は利用者が負担

なお水道光熱費や日用品費については、障害者側の負担になります。当然ながら、利用者が増えるほど水道光熱費や日用品費は増えていきます。ただ障害者が支払ってくれるため、これについては心配不要です。

障害者グループホームは多くの場合、シェアハウス形式です。シェアハウス形式の場合、利用者が増えるほど一人当たりの水道光熱費は安くなるため、利用者にとっても優れます。一方でワンルームの場合、障害者が利用した分だけ水道光熱費を請求することになります。

また食費も利用者負担になります。「手作り料理を提供する」「弁当を提供する」「食事提供なし」と事業所によって食事提供のスタイルは異なりますが、食費についても事業所側の負担はありません。

・過大請求すると行政処分になる

ちなみに、家賃と同様に食費や水道光熱費、日用品費についても利用者への上乗せ請求が禁止されています。例えば過去には利用者に対して食材費の過大請求を行い、全国ニュースになって指定取り消しとなった事業所があります。

利用者が増えるほど国からの報酬や利用者による家賃支払いにより、キャッシュフローは改善されていきます。ただ、利用者から過大徴収するのは避けましょう。食材費や水道光熱費というのは、あくまでも事業者側に負担がないように徴収する行為が許されており、過大請求は禁止されています。

共同生活援助の開業で必要費用を見積もる

障害者グループホーム(共同生活援助)の開設を考えるとき、新たな建築を考えてはいけません。初期費用が膨大になるため、特別な理由がない限りはシェアハウスでもワンルームでも、賃貸にて障害者グループホームを立ち上げましょう。

老人施設とは異なり、障害者施設は必ずしもバリアフリーである必要はなく、大規模なリフォーム費用は不要です。ただそれでも、賃貸契約や家具・家電の購入、サービス管理責任者の採用費用などで500万円以上の初期費用を考えなければいけません。もちろん、契約物件によって初期費用は大きく変動します。

また家賃支払いや税理士費用、人件費などのランニングコストが発生します。満床に近づけば家賃負担は少なくなり、国からの報酬も入ってくるものの、それまでのキャッシュフローを考える必要があります。ただ、食費や水道光熱費、日用品費などは利用者負担になります。

障害者グループホームの開業費用としては、大まかにこうした金額になります。賃貸物件によって立ち上げ費用やランニングコストは大きく変動するものの、初期費用とランニングコストを意識して、それを支払えるだけのお金を用意した状態で開業しましょう。

【全国】利用者を増やしたい障害者グループホームの募集