障害者の種類として知的障害者がいます。知的障害者となった理由は人によってさまざまですが、知的障害者の場合は障害年金の受け取りが可能です。
ただ身体障害者や精神障害者とは異なり、障害年金の申請には知的障害者ならではの注意点があります。初診日の証明は不要であるものの、診断書を書いてもらう医療機関を事前に決めて相談する必要があるなど、特別な準備が必要になるのです。
また、病歴・就労状況等申立書を自ら作成しなければいけません。基本的には専門家に作成依頼するものの、事前に書き方を知っておく必要があります。
それでは、知的障害者はどのような点に注意して障害年金の申請をすればいいのでしょうか。知的障害者で障害年金を受給するための手順やポイントを解説していきます。
もくじ
知的障害者は20歳が障害認定日:有期認定と永久認定
まず、いつから障害年金を受給できるのか理解しましょう。障害年金を請求できる日を障害認定日といいます。障害認定日は必ず20歳からとなりますが、知的障害者は生まれた時点から障害をもつことになります。そのため、障害認定日は20歳の前日です。
つまり、20歳になった時点で素早く書類を提出しなければいけません。これにより、知的障害者は障害年金の受給が可能になります。
なお障害年金を受給するためには、初診日の時点で国民年金保険料を支払っていなければいけません(サラリーマンの場合は厚生年金を支払うことになる)。ただ知的障害は生まれつきであり、誕生日が初診日に該当します。当然、赤ちゃんが国民年金保険料を支払っていることはあり得ません。
そのため知的障害者のように、20歳前が初診日の場合、保険料の支払いなしに障害年金を受給できます。
・有期認定と永久認定は人によって異なる
なお障害年金の審査を受けるとき、期限付きの有期認定とずっと障害年金を受け取れる永久認定があります。知的障害(精神遅滞)は治ることがありません。そのため、永久認定になる人もいます。
ただ、通常は期限付きの有期認定となります。知的障害者であっても「最初は有期認定になる」というケースは多いです。これは、知的障害者であっても障害者手帳(療育手帳)の更新と等級判定が定期的に必要なのに似ています。
認定基準:一般企業での就労では厳しくなる
それでは、どのような知的障害者で障害年金を受け取ることができるのでしょうか。知的障害者は障害年金1級または2級に該当する必要があり、基準は以下のようになっています。
障害年金 | 基準 |
1級 |
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2級 |
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つまり、他人の援助なしでは生きていけない人が該当します。そのため誰の援助もなしに一人暮らしをしていたり、一般企業でフルタイム勤務をしていたりする知的障害者の場合、障害年金の審査は非常に厳しくなると考えましょう。
なお、障害年金3級は「労働が著しい制限を受ける状態」が基準になるため、一般企業で就労している人であっても問題ありません。ただ障害年金3級は初診日に厚生年金に加入しているサラリーマンが対象となるため、知的障害者は対象外になります。知的障害者の場合、前述の通り誕生日が初診日に該当するからです。
軽度知的障害者で事後重症請求は問題ない
先ほどの基準で考えると、中度や重度の知的障害者(療育手帳A・B)であり、実家や障害者グループホームなどで暮らしていて、一人では生きていけないのであれば障害年金の受給が可能です。
一方で軽度知的障害者の場合、実際のところ障害年金の受給が難しくなります。障害年金2級の基準に該当しないからです。
ただ軽度知的障害者であり、障害認定日(20歳に到達したとき)に障害年金の基準を満たしていなかったとしても、後になって障害年金の基準を満たすケースがあります。例えば、「元々ある知的障害に加えて、うつ病を発症した」などが該当します。
障害認定日より後になって基準を満たし、その段階で書類提出する方法を事後重症請求といいます。
軽度知的障害者であり、知的障害(精神遅滞)の単独申請では難しくても、他の精神障害が組み合わさることで障害年金の受給要件を満たすことはよくあります。この場合、軽度知的障害者を含めて申請が可能です。
初診日は20歳前であり、証明なしに診断書を提出する
なお通常、障害年金に申請するためには初診日の証明が必要になります。最初に受診した病院・クリニックにて、カルテなどの情報をもとにして受診状況等証明書を作ってもらうのです。
ただ知的障害者の場合、前述の通り出生日が初診日です。受診状況等証明書によって初診日を証明しなくても「初診日=生まれた日」とわかります。そのため、知的障害者は例外的に初診日の証明が不要であり、受診状況等証明書を提出しなくてもいいです。
その代わり、療育手帳(愛の手帳)などのコピーを提出すれば十分です。
一方で医師の診断書の提出は必須です。医師の診断書について、初診年月日に誕生日を記してもらうことになります。
障害年金の審査で最も重要な内容が医師の診断書です。医師の診断書に記されている内容によって障害年金の等級の大部分が決定されます。
事前にかかりつけ医を決めておき、診断書作成を依頼する
そこで、事前にかかりつけ医を決めて診断書作成を依頼しましょう。知的障害者の場合、定期的に病院・クリニックに通院していない人は多いです。この場合、どの医師に診断書の作成を依頼すればいいのかわかりません。
そのため20歳になって障害認定日に到達した時点で障害年金への請求が可能とはいっても、依頼する医師が決まっていなければ申請できません。そのため、診断書を書いてくれる医師を事前に探しておくことが重要なのです。
また通常の診察用と障害年金用の診断書は内容が大きく異なります。例えば以下は、障害年金用の診断書の一部です。
ここには、「アパートなどで一人暮らしをしている」と仮定して、以下の項目内容がどれだけ可能かチェックを入れることになります。
- 適切な食事:配膳などの準備を含め、適当量をバランスよく摂る
- 身辺の清潔保持:洗面、洗髪、入浴などの身体の衛生保持や着替え
- 金銭管理と買い物:金銭を独力で適切に管理し、一人で買い物が可能
- 通院と服薬:通院や服薬を行い、病状を主治医に伝える
- 他人との意思伝達・対人関係:他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える
- 身辺の安全保持・危機対応:事故などの危険から身を守る、他人に援助を求める
- 社会性:銀行での金銭の出し入れや公共施設などの利用
こうした項目の内容を医師が把握していることはありません。事前に親などが医師へ伝える必要があり、そのためには前もってメモを作成しておくなどの配慮が重要です。こうした事実からも、障害年金の申請準備は知的障害者が20歳になる前に準備しておいたほうがいいとわかります。
なお、20歳の誕生日になる3か月以上前に診断書を取得する場合、その診断書は申請書類として利用できません。そのため、20歳になる3か月前になった段階で準備を開始するといいです。
病歴・就労状況等申立書を自ら仕上げる
医師の診断書に加えて、障害者本人または家族が病歴・就労状況等申立書を作ることにより、障害年金への申請が可能になります。知的障害者は生まれた日が初診日であるため、誕生日から現在までの病歴や学校の様子を記すことになります。
このとき、以下のように3~5年ごとに期間を区切って記しましょう。
- 出生~入園前
- 幼稚園・保育園
- 小学校低学年
- 小学校高学年
- 中学校
- 高校
- 現在まで(3~5年で区切る)
知的障害者の場合、病歴というよりも、以下のような日常生活で困っている点を記すことになります。
- 学校の先生による、どのような配慮があったか
- 友人との交友関係や遊び方(一人での遊びが多いなど)
- 学校の成績、集団行動での様子
- 特別支援学校や支援学級での様子
- 通学・通勤の方法(親による送り迎えなど)
軽度知的障害者の場合、併発している精神疾患を重点的に記す必要があります。一方で知的障害のみで障害年金を申請する場合は「日常生活で何に困っているのか」を記載するといいです。
なお、通常は障害年金を専門に活動している社労士(専門家)へ作成を依頼することになります。そこで、社労士の力を借りながら病歴・就労状況等申立書を仕上げましょう。
知的障害者で障害年金を受け取る
すべての障害者について、基準を満たしていれば障害年金を受け取ることができます。これは知的障害者も同様であり、援助なしでの生活が難しいのであれば、積極的に障害年金へ申請することで1級または2級の認定を受けましょう。
このとき有期認定と永久認定があり、更新が必要になる有期認定となるのは普通です。永久認定になるとは限りません。また初診日は生まれた日であるため、初診日の証明が必要なく、他の障害者に比べると書類を用意しやすいのが知的障害者です。
ただ、かかりつけ医がいない知的障害者は多いです。そこで診断書を書いてくれる医師を事前に探し、症状や日常生活で困っている点を伝えなければいけません。また、本人または家族が病歴・就労状況等申立書を仕上げます。通常は家族が作成することになりますが、場合によっては社労士に頼りながら病歴・就労状況等申立書を作りましょう。
これらの準備をしたうえで、20歳(障害認定日)を過ぎたら障害年金の必要書類を提出しましょう。審査に受かれば、定期的にお金を受け取れるようになります。
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