障害者の中でも、障害者雇用として一般企業で働いている人はたくさんいます。作業所ではなく、正社員として企業に雇用されることで賃金を得るのです。それでは、障害者手帳を用いて障害者枠で就職する場合、年収・給料はどのようになるのでしょうか。

健常者に比べると、どうしても平均給与は低くなってしまう現実を避けることはできません。もちろん障害者で健常者と変わらないパフォーマンスを出せる人はいるものの、全体の数からすると少ないのです。

ただ障害者には所得控除がありますし、企業の福利厚生をうまく利用すれば実質的な手取りを大幅に増やせます。そのため、障害者雇用では年収以外にも着目しなければいけません。

それでは、障害者雇用での賃金はどのようになっているのでしょうか。障害者手帳を用いてフルタイムで働くときの年収・給料を確認していきます。

一般枠に比べて障害者枠の年収は低め

障害者手帳を保有している場合、障害者枠を利用できます。以下の障害者手帳のうち、どれかを保有していれば問題ありません。

  • 身体障害者手帳:体の機能に障害のある人
  • 療育手帳:知的障害のある人
  • 精神障害者保健福祉手帳:精神障害のある人

障害者雇用の内訳を確認すると、求人を出している企業のほとんどは製造業、卸売業・小売業、医療・福祉、サービス業です。そのため、このうちどれかの業種で働くことになりますが、どうしても健常者に比べて年収は低めとなります。

労働時間が短い場合、時短勤務と同じなのでその分だけ給料が低くなるのは当然として、フルタイム勤務であっても高給はなかなか望むことができません。

身体障害者・知的障害者・精神障害者の平均給与

それでは、障害者雇用での平均給与はどれくらいになるのでしょうか。就業時間が短い場合、年収が低くなるのは当然であるため、週30時間以上を働いている障害者について給料を確認していきます。

厚生労働省の障害者雇用実態調査(2018年)によると、障害者の種類別の平均月収(週30時間以上労働)は以下のようになっています。

  • 身体障害者:月24万8000円
  • 知的障害者:月13万7000円
  • 精神障害者:月18万9000円

身体障害者の場合、肢体不自由や臓器障害はあるものの、判断能力はしっかりしていますし、急に精神状態が悪くなって仕事を休むこともありません。そのため、ほかの障害者に比べると身体障害者の平均給与は高くなっています。

参考までに、障害者として障害者雇用で働いている人のうち半分以上は身体障害者です。身体障害者というのは、一般企業で働きやすい障害者といえます。

一方で判断能力が弱くなりがちな知的障害者であったり、精神状態が安定しにくい精神障害者だったりする場合、どうしても身体障害者に比べて賃金が低くなりやすいです。

ちなみに、ボーナスが年間で4か月分支給されると仮定すると、それぞれの障害者の平均年収は以下のようになります。

  • 身体障害者:年396万8000円
  • 知的障害者:年219万2000円
  • 精神障害者:年302万4000円

日本人の平均年収は年450万円ほどであるため、健常者ほどではないものの、身体障害者であってもそれなりの年収になるとわかります。一方で知的障害者や精神障害者の場合、どうしても障害者雇用での年収が低くなってしまいます。

なお一般企業で働くとはいっても、このうち月給制ではなく時給制になっていることも多く、一般的な雇用とは少し異なることがよくあります。正社員ではなく、契約社員のケースもよくあります。そのため一概にはいえませんが、ザックリと上記のような給料になると考えましょう。

福利厚生に着目し、実質的な手取りを上げる

会社によって給料は決まっており、簡単に収入は上がりません。ただ、賃金面が同じ条件であっても福利厚生に着目することによって大幅に手取りを多くすることができます。

実際のところ、給料は低くても「福利厚生が優れるために、実質的な賃金が高くなる」のは普通です。例えば以下は医療グループが出している障害者雇用での求人です。

この会社の場合、住宅手当は月3万円と大きめです。最もお金がかかるのは賃貸費用ですが、住宅手当がない会社と比較した場合、手取りベースで月3万円(年間36万円)もの大きな違いになります。またこの会社は独自の単身寮があるため、一人暮らしであれば格安で住めます。

福利厚生というのは、第二の給料と同じです。そこで月給だけでなく、どのような福利厚生があるのかに着目すると、障害者雇用の中でも手取りを増やしやすくなります。

労働時間別の給料はどのようになっているのか

ただ中には、フルタイムで働けない人もいます。こうした障害者が一般企業で働く場合、どのような給与体系になるのでしょうか。厚生労働省の障害者雇用実態調査(2018年)によると、以下のようになっています。

・身体障害者の場合

週の労働時間給料
30時間以上月24万8000円
20~29時間月8万6000円
10~19時間月6万7000円
全体の平均月21万5000円

・知的障害者の場合

週の労働時間給料
30時間以上月13万7000円
20~29時間月8万2000円
10~19時間月5万1000円
全体の平均月11万7000円

・精神障害者の場合

週の労働時間給料
30時間以上月18万9000円
20~29時間月7万4000円
10~19時間月5万1000円
全体の平均月12万5000円

このように確認すると、たとえ身体障害者であっても、労働時間が短い場合は知的障害者や精神障害者と比べて給料に大きな違いがないとわかります。ほかの障害者に比べて身体障害者の給料が高めなのは、障害の内容によっては健常者と同様のパフォーマンスを出せるからなのです。

障害者手帳を用いた所得控除によって税金を抑える

なお障害者として働く場合、一般枠や障害者枠に関係なく、障害者手帳を利用して税金を低く抑えましょう。障害者手帳がある場合、本人または配偶者・扶養者の税金を抑えることができます。

ここでは本人(障害者)が障害者雇用で働く場面を想定しているため、本人の所得控除について解説しますが、障害者手帳がある場合は以下の所得控除があります。

区分所得税住民税
障害者27万円26万円
特別障害者40万円30万円

特別障害者は「特に重度の障害者」が該当し、具体的には以下の人になります。

  • 身体障害者1級または2級
  • 重度の知的障害者(IQ35以下)
  • 精神障害者保健福祉手帳1級

重度の知的障害者(IQ35以下)や精神障害者保健福祉手帳1級の人がフルタイムで企業勤めするのは現実的ではないため、実際には身体障害者1級または2級の人が特別障害者の対象になります。それ以外の中度・軽度の身体障害者・知的障害者・精神障害者は上の表での「障害者」に該当します。

例えば所得税率10%の場合、軽度の障害者では以下の所得税が減ります。

  • 27万円(控除額) × 10%(税率) = 2万7000円

一方、住民税は所得に関係なく税率10%です。そのため、年2万6000円の住民税が減ります。

  • 26万円(控除額) × 10%(税率) = 2万6000円

こうして、所得税率10%と仮定すると年間5万円以上の税金(所得税と住民税)を抑えられます。障害者手帳を活用することで、所得控除の分だけ手取りが増えます。

重度の身体障害者であっても働くのは可能

なお障害者雇用について、身体障害者であれば重度であっても障害者雇用にて働くことができます。重度の知的障害者や精神障害者は厳しいものの、重度の身体障害者でフルタイム勤務している人はたくさんいます。

事実、厚生労働省による調査では、身体障害者のうち一般企業で働いている人で最も多い等級は身体障害者手帳1級・2級の人です。

・身体障害者の程度別割合

身体障害者については、最も重度の人がたくさん含まれているものの、ほかの障害者に比べて給料が高いです。こうした事実から、身体障害者であれば重度であっても「ほかの障害者に比べて高い給料を得るのは可能」とわかります。

もちろん、収入は本人のスキルや経験に大きく左右されます。そのため、ここまで述べたことは参考程度にするといいです。

障害者雇用で働くときの年収を知る

障害者手帳を保有する場合、障害者枠にて就職できます。手帳の種類や等級は何でも問題ないですが、いずれにしても障害者雇用が可能なのです。

このとき、障害者はどうしても健常者に比べて給料が低めになってしまいます。フルタイムで働けない場合は当然として、週にある程度の時間を働いても知的障害者や精神障害者では低めの年収となりやすいのです。

一方で判断能力や精神障害に問題ない身体障害者については、たとえ重度であっても、ある程度の給料を得やすいです。ただ、身体障害者であっても勤務時間が少ないと給料は低いです。

障害者の賃金や勤務時間に関する具体的な内容は統計データとして公開されています。こうしたデータを読み解くことにより、障害者雇用の状況や実態を把握できます。

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