違法薬物やアルコールに対する依存症・後遺症で苦しんでいる人はたくさんいます。それでは、こうした薬物依存状態の人について、障害年金の支給対象になるのでしょうか。

覚せい剤やシンナーなどの違法薬物については、障害年金の対象ではありません。場合によっては支給となるケースはあるものの、基本的には受給できないと考えましょう。

一方でアルコール依存症であれば、障害年金の対象になります。なお、アルコール依存症だけで受給できた事例はあるものの、実際のところは厳しいです。そのため、他の精神疾患を併発していると受給しやすいです。

それでは薬物依存症やアルコール依存症について、どのように考えて障害年金を受給すればいいのでしょうか。薬物依存症やアルコール依存症での障害年金について解説していきます。

薬物依存症の場合は障害年金の対象外

まず、覚せい剤やシンナーなどの違法薬物から確認しましょう。先ほど解説した通り、違法薬物による後遺症を含めて、薬物依存症は障害年金の対象外です。

障害年金には給付制限があり、以下のようになっています。

【国民年金法第69条】

故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする障害年金は支給しない

【国民年金法第70条】

故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由が無くて療養に関する指示に従わないことにより、障害若しくはその原因となった事故を生じさせ、又は障害の程度を増進させた者の障害については、これを支給事由とする給付は、全部又は一部を行わないことができる

覚せい剤やシンナーなど、違法薬物を使用すると、後遺症のリスクがあるのは誰でもわかっています。そのため「違法薬物のリスクを承知で使用しているため、たとえ後遺症が残っても障害年金は支給されない」というわけです。

他の病気でも、薬物との関連性が認められると給付されない

なお薬物依存症によって、うつ病など他の精神症状を発症することがあります。違法薬物によって脳が正常に働かなくなると、その他の精神疾患を発症するのは珍しくありません。

通常であれば、うつ病などの精神疾患は障害年金の対象になります。ただ、こうした他の精神疾患であっても、薬物との関連性が認められると障害年金の給付はされません。

つまり以前に違法薬物での既往歴があり、その後に他の精神疾患を発症したとしても、それは違法薬物による後遺症と考えることができます。そのため覚せい剤などの薬物依存症と関連がある場合、障害年金の対象外になります。

判断能力のない状態や故意でないなら受給可能

それでは、覚せい剤やシンナーなどによる薬物使用で絶対に障害年金の支給が認められないかというと、そういうわけではありません。例えば重度の統合失調症を発症しており、判断能力のない状態で薬物を使用したのであれば障害年金へ申請できます。

または、故意(わざと)でない場合についても受給可能です。例えば工場や塗装業など、仕事でシンナーを含む有機溶剤を利用する人がいます。この場合、薬物による影響を受けたとしても業務上での作業であり、自ら違法薬物を利用したわけではありません。そのため、障害年金の支給対象となります。

・証拠がないと故意かどうかわからない

それでは、故意かどうかをどのように判断すればいいのかというと、明確な証拠を提示できるようにする必要があります。仕事であれば故意ではないのは明らかです。それでは、他の人に無理やり覚せい剤を使用させられた場合はどうでしょうか。

過去の裁判歴や弁護士とやり取りした文章を含め、違法薬物の使用を強制させられたと立証できなければ「故意に違法薬物を使用したのでは?」という結論になります。そのため、「故意ではない」という証拠を残しておくのは重要です。

アルコール依存症であれば障害年金の対象になる

なお違法薬物による依存症ではないものの、同様に脳へ影響を与える物質にアルコールがあります。アルコール依存症については、覚せい剤などによる薬物依存症とは異なり、障害年金の対象になります。

障害年金の認定基準を確認すると、以下のようになっています。

【症状性を含む器質性精神障害】

症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)とは、先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経等の器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むものである。

なお、アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神及び行動の障害についてもこの項に含める。

このように、アルコールによる精神や行動の障害についても障害年金の対象になると規定されています。

他の精神疾患がある状態は受給で必須

なおアルコール依存症によって障害年金の受給が可能とはいっても、単に「アルコールをやめられない」だけでは対象外になります。アルコール依存症によって人格の変化や認知障害、その他の精神症状(幻覚・幻聴・震え)が表れており、日常生活が困難であるほどの症状でなければいけません。

アルコール依存症という単一病名であっても障害年金の受給は可能であるものの、アルコール依存症の中でもかなり重度の状態である必要があります。これについて、以下のように認定基準にも明記されています。

【精神作用物質使用による精神障害】

アルコール、薬物等の精神作用物質の使用により生じる精神障害について認定するものであって、精神病性障害を示さない急性中毒及び明らかな身体依存の見られないものは、認定の対象とならない。

いずれにしても、単なる酒飲みの状態では障害年金を受給できません。

・先に他の精神疾患が初診なら病名が異なる

違法薬物での薬物依存症とは異なり、アルコール依存症で受給が可能とはいっても、病名が単なる「アルコール依存症」の場合、このように受給は難しいです。例えば「アルコール依存症の人が後でうつ病を発症した」「認知障害が表れている」など、他の精神疾患が重要になります。

ちなみに初診日(最初の医療機関受診の日)にうつ病で受診している場合、ストレス緩和のために多量のアルコールを摂取してアルコール依存症になったのであれば、傷病名はうつ病になります。うつ病で障害年金を受給している人は非常にたくさんいるため、うつ病にて障害年金の受給は特に問題ありません。

薬物依存症、アルコール依存症での障害年金受給

同じ依存症であっても、状況によって障害年金の給付状況が異なります。薬物依存症について、違法薬物の使用は後遺症が存在すると明らかです。そのため給付制限に該当し、故意でない場合を除いて障害年金の支給対象外になります。

一方で依存症の中でも、アルコール依存症は給付制限に引っかかりません。診断書にアルコール依存症だけが記されている状態であっても障害年金へ申請できます。

ただ実際には、単にアルコール依存症だけの状態では不十分であり、他の精神症状が表れ、日常生活が困難な状態に陥っている必要があります。人格の変化や認知障害、幻覚・幻聴・震えなどを生じているアルコール依存症であれば障害年金が支給されます。

薬物依存症とアルコール依存症では、障害年金の中身が大きく異なります。こうした違いを理解して、依存症で認定条件に当てはまっている人は障害年金を活用しましょう。

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