障害者であっても結婚するのは普通です。ただ結婚生活がうまくいかず、別居・離婚となるケースもよくあります。

そうしたとき、別居中は婚姻費用、離婚成立後は養育費が必要になります。子供がいる場合、婚姻費用と養育費は特に重要です。ただ障害者であれば障害年金を受け取っている人が多く、この場合は障害年金を考慮しなければいけません。

別居・離婚によって資産は財産分与の対象となります。このとき、障害年金で受け取った現金は財産分与の対象になります。また、婚姻費用や養育費の計算では障害年金を収入として計算しなければいけません。

離婚によって行うことはほかにもありますが、特に重要なのがお金の計算方法です。そこで、財産分与や養育費で障害年金をどのように考えればいいのか解説していきます。

別居・離婚によって財産分与の対象となる

離婚することにより、それまで保有していた財産について、財産分与の対象になります。夫婦の財産は共有財産と呼ばれ、それまで二人が協力することによって得られた財産と考えることができるからです。

このとき、独身時代の財産は分与対象として関係ありません。ただ結婚後から別居するまでの財産については、財産分与の対象としなければいけません。

例えば独身時代に100万円の貯金があるとします。その後、結婚して別居までに900万円を稼ぎ、合計で1000万円を貯めました。その後、別居を経て離婚するとします。

この場合、結婚後に新たに作った財産である900万円が共有財産であり、財産分与の対象になります。

現金は財産分与の対象となり、障害年金を受け取る権利は関係ない

このとき、障害年金の支給によってそれまで受け取ったお金は財産分与の対象になります。障害年金の支給によって結婚後にお金が貯まっている場合、「配偶者との協力によって貯蓄できた」と考えることができるからです。

障害年金は障害者個人に支払われるお金であるものの、実際の生活では配偶者を含めた共同のお金で生活していることになります。障害年金とはいっても、現金として着金すると、その瞬間に夫婦の共有財産になると考えましょう。

受け取る人の障害による年金であるため、「障害年金は特有財産(共有財産から除外される)となるのでは?」と考える人がいるかもしれません。ただ障害年金には配偶者加算があり、配偶者を含めた家族の生活のために利用されることが想定されています。そのため、障害年金で受け取るお金は特有財産とはならないのです。

・障害年金を受け取る権利は財産分与と関係ない

一方で別居・離婚後に受け取ったお金や障害年金を受け取る権利は財産分与の対象にはなりません。障害をもつことでお金を受け取る権利が障害年金であるため、健常者である元配偶者が障害年金を受け取るのは当然ながら不可能です。そのため、障害年金の権利を差し押さえできません。

また元配偶者が障害者であっても、その人の障害の程度を考慮して障害年金が決定されるため、障害年金はその人固有の権利になります。財産分与の対象になるのは、あくまでも結婚後から別居(または離婚)するまでの期間に築いた財産になります。いずれにしても障害年金を受け取る権利については、離婚後の財産分与とは関係ありません。

婚姻費用・養育費で障害年金は収入として取り扱う

なお夫婦というのは、多くのケースで稼ぐ額に夫婦間での違いがあります。このとき、ほとんどのケースで障害者のほうが収入は低くなります。身体障害者の場合、それなりの収入を稼いでいるケースはあるものの、知的障害者や精神障害者を含め、どうしても平均収入は低くなります。

このとき、特に子供がいる場合は障害年金だけで生きていくのは難しいため、婚姻費用や養育費が重要になります。それぞれの違いは以下のようになります。

  • 婚姻費用:別居して離婚するまでに受け取るお金
  • 養育費:離婚後に受け取るお金

そこで、相手から受け取る養育費(あなたの収入が多い場合、元配偶者に支払う養育費)を計算しなければいけません。そうなると、「障害年金は婚姻費用や養育費の計算をするときに考慮する必要があるのか?」と疑問に思います。

結論を先にいうと、養育費の計算をするとき、障害年金を収入として考えて考慮しなければいけません。障害年金は非課税所得であり、所得税・住民税の対象外ではあるものの、婚姻費用や養育費の計算では含める必要があるのです。

養育費に障害年金を考慮する実際の裁判事例

これについては、過去の裁判であっても「養育費の計算をするときに障害年金を考慮する」と判決が出ています。

【さいたま家裁越谷支部 2021年10月21日】

障害者年金は、前記認定事実記載のとおり子らのための相当額の加算もあり、受給する申立人及び子らの生活保障の一部といえるから、申立人の収入と評価するのが相当である。ただし、障害者年金は職業費を要しない収入であり、標準算定方式の前提となった統計数値により、全収入における職業費の平均値である15%で割り戻すのが相当である。

このように、「障害年金で得られるお金について、0.85で割った金額が収入になる」とされています。例えば障害年金で年100万円を得ている場合、年117万6471円の収入を得たと考えて婚姻費用や養育費の計算をします。

  • 100万円 ÷ 0.85 ≒ 117万6471円

会社員として就労する場合、洋服代や交通費など、どうしてもこれらの費用が発生します。これを職業費といいますが、通常は15~20%で考えます。ただ障害年金は労働とは関係なく受け取るお金であり、職業費が必要ないため、職業費15%を考慮するために「0.85で割る」というわけです。

ただ障害者の場合、定期的な通院が必要になるケースが多いです。通院によって毎月、ある程度の医療費を支払っている場合、障害年金を得ているとはいっても、医療費の支払い分を考慮して養育費の金額を決める必要があります。

なお、同じ裁判で「生活保護費は養育費に含めない」と判決が出ています。一方で障害年金については、養育費に含めて計算する必要があるというわけです。

離婚で配偶者加給年金(配偶者加算)を取り下げる

なお障害年金を受け取っている人の中には、配偶者加算を利用している人がいます。一定の条件を満たせば、配偶者加給年金(配偶者加算)を受け取ることができるのです。

ただ実際に離婚する場合、当然ながら配偶者加算を受け取る権利はありません。そこで、忘れずに加算額・加給年金額対象者不該当届を提出しましょう。

こうした届け出を出さすに高額な障害年金を受け取り続ける場合、不正受給に該当します。そのため、離婚に伴って必ず提出する必要があります。

女性の名前変更は氏名不一致を避ける必要あり

なお男性であれば特に問題ないですが、女性の場合、離婚に伴って名前を元に戻すのは普通です。この場合、女性が障害年金を受け取るときは氏名不一致を避ける必要があります。

マイナンバーによって障害年金を管理するため、役所側については、離婚による氏名変更に伴って障害年金で何か手続きを行う必要はありません。つまり、年金事務所での作業はありません。

一方で金融機関側(銀行側)については、氏名不一致によって振り込みがうまくいかなくなるリスクがあります。そのため役所側ではなく、銀行側の氏名変更を正しく行えているかどうか確認しましょう。これにより、障害年金の受け取りがスムーズになります。

離婚時の養育費の計算方法や手続きを学ぶ

別居・離婚によって結婚生活を終わらせる夫婦はたくさんいます。このとき、障害年金を受け取っている場合の取り扱いを学びましょう。

障害年金には配偶者加算があり、障害年金は夫婦の生活費用も想定しています。そのため受け取った現金は二人の共有財産に該当し、財産分与の対象になります。ただ別居・離婚後は財産分与の対象になりません。障害年金の権利自体が差し押さえになることもありません。

また婚姻費用や養育費の計算について、障害年金は収入の対象になります。受け取ることになる障害年金に対して、0.85で割ることによって計算できます。障害年金の養育費計算については、過去の裁判でも判例が存在します。

それに加えて、加算額・加給年金額対象者不該当届など離婚に伴う手続きを完了しましょう。障害年金に関して、別居・離婚時での養育費の算定法や手続きを知ることにより、どのように障害年金を取り扱えばいいのかわかります。

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